駐車場のおじさんはいい人でした

 空気清浄機を買って持ち帰ろうとしたら思っていた以上に大きくて重いことが分かり、2つ隣のビルの駐車場まで手に下げて運ぶのは(夫が)あきらめ、商品はそのまま店に預けて車を取りに行った。(最初から電器店のあるビルに駐めていなかったことには理由があるのだけど割愛)


 出してきた車で電器店の入ったビルの方の地下駐車場に降りて行くと、当然のように立体駐車場の方に誘導された。上の階に行って荷物を取ってくるだけの短時間の駐車なので、平置きできる方に駐めさせてもらえないだろうかと係の人に言ってみると、平置きの方はスペースが少ないので、(立体駐車場に入れない)ハイルーフの車が来たときのために空けておかなければならないと言われる。とはいえ、すぐ戻ってくるならばむしろあちらにと、別の係の人が荷物の搬入に使われるらしい場所に誘導してくれた。


「本当に5分くらいですよね?」と心配されたので、もしもの時には車を移動できるようにと、私は車に残ることにした(助手席のままだけど)。そうして夫がビルに入って行ってすぐのことだ。入れ違いに駐車場に戻ってきたらしい(と後で聞いた)30代後半くらいの、青いポロシャツにチノパン、片手にセカンドバッグを持った男性が、何やら係の人にくって掛かるのが見えた。


 係の人が冷静に応対しているのに対して、ポロシャツの人はここはこーだろ! だからああだろ! と、大きな声で抗議している。「例外なんかないだろ!」と聞こえて、うちの車のことを言われているらしいと分かった。もしかして業者の車の邪魔になっているのかと見てみるとそんなことはなく、ポロシャツの人はただの客にしか見えない。要するに、立体駐車場に入れずに駐車スペースではない場所に駐めさせた係の人の判断に対して抗議しているらしかった。それはそれはものすごい剣幕だった。


 わたしは車内で助手席から運転席に移って、いつでも車を動かせるようにした。夫は直に戻ってくるだろうけれど、この際、立体駐車場にでもなんでも入れよう、本当はそれが筋だよなと思った。何より、いつまでも怒鳴られている係の人が気の毒だ。


 エンジンをかけた音が聞こえたのか、係の人はこちらを見て、ほっとしたような顔で男の人との話をまとめに入り、わたしの方に来る。その背中にポロシャツの人はまたひとしきり何か言って「一旦外に出させるんだからな!!」と念を押すように怒鳴って締めくくった。一度外に出る意味がわからないけれど、余程、便宜をはかってもらったうちの車が許せなかったんだろう。


「申し訳ないです。一度外に出てもらって、それからもう一度入ってきていただけますか?」と、係の人は本当に申し訳なさそうに言うからもう、こちらもわがまま言ってすみませんでしたと車を出せば、「気をつけて回ってきてくださいね」と云われる。
 確かにこの辺を運転するのは苦手なのだけど仕方がない。一方通行の標識に従って慎重にぐるっとビルの回りを走って、もう一度そのビルの駐車場の狭いスロープを降りて行った。今さら立体駐車場に入れるのは時間の無駄でしかないなあと心配していると、運良く夫が荷物を手に降りて来た所だったので心底ほっとした。